エリアマーケティングは、観光業やホテル業、飲食業など地域に密着した事業を手がける企業であれば欠かせないマーケティング戦略のひとつです。エリアマーケティングは実店舗の近隣住民を対象に展開する場合が多いですが、観光客向けにも活用できます。データから観光客の動きを分析したり、地域の特性を生かして地域ブランドを構築したりすることで、国内外からの誘客が可能です。
エリアマーケティングにはもともと複数の手法がありましたが、近年はインターネットやスマートフォンの普及により、さらに多様化しています。
この記事では、エリアマーケティングの概要と手法、メリットなどを解説します。
エリアマーケティングとは
エリアマーケティングとは、対象とする地域の情報を収集し、それに基づいて施策を策定・実行するマーケティング手法のことです。「地域密着マーケティング」ともいいます。
収集する情報には、次のような項目があります。
- 人口、人口構成、人口動態
- 地域の産業、需要、消費傾向、土地の特色
- 交通インフラ、生活様式
そのほか、必要に応じてさまざまな情報を収集・分析してマーケティングに利用します。
エリアマーケティングを行う目的は、新店舗の開店や運営、業績改善などです。全国規模のデータも比較のためには用いますが、主役となるのは地域に密着したデータです。収集したデータを用いて需要構造や環境を分析し、最適なアプローチを考えます。
エリアマーケティングでできること
- 商圏分析に基づいた進出地域や市場の選定
- 地域の特徴に最適化したマーケティング施策の策定
- 地域の特色や観光分析に基づいた観光施策の策定
これらを実施して、対象とする店舗の顧客満足度向上や売上拡大、観光客の誘致を図ります。最終的には、全社規模の顧客満足度や売上の上昇、地域全体の観光業振興を目指します。
エリアマーケティングと商圏分析
エリアマーケティングに不可欠なのが商圏分析です。
「商圏」とは、施策の対象となる施設の既存顧客や潜在的顧客が生活している範囲のことです。対象が店舗の場合は、店舗に顧客として訪れることができる範囲ともいえます。商圏分析を行うことで、ターゲットやニーズの可視化が可能です。
商圏内で生活している人の数が「商圏人口」です。居住者だけでなく、商圏に通勤・通学する昼間人口も商圏人口に含まれます。
商圏の範囲は、一律に決まっているわけではありません。業種や商品の種類、および交通事情や地域の特色により、その広さは大きく異なります。
エリアマーケティングのメリット
エリアマーケティングを行うことで、次のようなメリットを得られます。
新規出店の判断
エリアマーケティングでは、上述したように商圏分析に基づいた進出地域や市場の選定が可能なため、新規出店の可否を適切に判断できます。
また、販売促進分析を組み合わせることで、これから販促活動を行うべき地域も可視化できます。
現状把握
商圏分析により、現在のマーケティング施策が適切か、ミスマッチが起きていないかを判断できます。
例えば、現状の売上が伸び悩んでいる店舗について、地域の特徴に最適化した施策を実施することによって、需要に合ったキャンペーンや広告配信などのテコ入れが可能です。
需要予測、売上予測
商圏分析により、対象地域の需要の現状と変動を予測し、売上予測を行うことができます。さらに売上を伸ばすため、適切な施策を講じることも可能です。
例えば、大学生の多い地域であれば、春先に一定数の住民が入れ替わり、不動産や家電製品などの需要が発生すると予測できます。そのため、需要発生前の段階で「若年層向け」「単身者の新生活」といったキーワードでの施策を打つと効果的でしょう。このように、適切な時期、ターゲットに合わせてキャンペーンや広告を配信することが可能です。
マーケティング戦略の策定
商圏分析により消費者・ターゲットの属性や地域の特徴を把握することで、地域の特性に合わせたマーケティング戦略の策定が可能です。
例えば、スーパーであれば、地域のイベントに合わせて通常とは違った商品の需要が伸びることも多いです。
エリアマーケティングは観光業への応用も可能
エリアマーケティングのメリットは、観光客に対するマーケティングにも応用できます。例えば、次のような施策が可能です。
- 人流データから観光客の動きを分析して、リピーターの獲得につなげる
- 地域の特徴・特産品などを生かし、地域ブランドの構築に役立てる
- 商圏内の観光施設・業者が提携して認知度向上に努め、相手の客を引き込む
- ジオターゲティング広告やリスティング広告でターゲットを絞った集客を行う
エリアマーケティング、特に商圏分析の結果を活用することで、データを基にして意思決定を行う観光施策や経営が可能です。
また、これらの施策はインバウンド誘致にも利用できます。例えば、地域ブランドの発信や広告による集客を英語・中国語などで行うことで、インバウンドの誘客が可能です。人流データには、携帯電話のローミングデータにより外国人の国籍、実数を把握可能できるものもあります。そのような情報を活用することで、国籍別のプロモーションや多言語対応を強化して、日本を訪れる観光客の分析ができます。これらによりインバウントの促進が期待できます。
エリアマーケティングの手法
商圏分析を基にして行うエリアマーケティングの具体的な手法を紹介します。
Web広告
・ジオターゲティング広告
スマートフォンの位置情報を利用して特定の地域にいる人へ配信する広告です。これまでの行動履歴に関係なく、ピンポイントで「その場所」にいる人へ広告を配信できる手法です。
・リスティング広告
ユーザーの検索キーワードを基にして検索結果の画面に配信する広告です。ユーザーの興味・関心に合わせた配信ができる手法です。
・SNS広告
Twitter、Facebook、Instagram、LINEなどのタイムラインに配信する広告です。ユーザーの属性や興味・関心に合わせた配信ができるだけでなく、拡散効果も期待できる手法です。
紙広告
・チラシポスティング
対象地域にある住居の郵便受けに直接投函する広告です。番地ごと、戸建てや集合住宅ごとにターゲティングした広告配布が可能な手法です。
・新聞折り込みチラシ
新聞と同時に配布する広告です。新聞購読者にしか配布できないので、ある程度ターゲットが絞られる手法です。
・ダイレクトメール
郵送・メール便などでユーザーに直接送付する広告です。地域を指定した新規顧客開拓に向いた手法です。
・手渡し(ダイレクトハンド)
路上で通行人に配布する広告です。該当地域を訪れるターゲットを確認して配布できるため、ターゲット精度の高い手法です。
・地域誌への広告
地域限定の雑誌やフリーペーパー、新聞などへの広告です。エリアを絞った訴求が可能な手法です。
屋外広告・屋外看板
・ポスター
駅や街中に掲示する紙の広告です。特定の地域を利用するターゲットへの訴求が可能で、掲示・交換が容易な手法ですが、紙なので破損のリスクがあります。
・看板
駅や街中に掲示する広告です。建物に取り付けられているか看板スペースに置かれ、比較的長期間掲示することが可能なため、刷り込み効果が見込める手法です。
・デジタルサイネージ
駅や街中にあるデジタルパネルに画像や動画を配信する広告です。動画なので人目を引きやすいという効果があります。ターゲットに合わせて日時を指定した配信も可能な手法です。
・電車内広告
電車やバスなどの、中吊り、扉、車内のデジタルモニターなどに配信する広告です。同じ空間で長時間目に留まることが多く、特定の沿線利用者に対して訴求できる手法です。
SNS運用
SNSで公式アカウントを作成し、運用する手法です。SNS広告はターゲットのタイムラインに配信しますが、こちらは通常のアカウントと同じように公式アカウントからフォロワーに向けて継続的に情報を発信します。フォロワーとのコミュニケーションも可能です。
Webサイト
自社もしくはブランド、商品などの公式サイトを作成し、キャンペーンや商品・サービスの情報を発信します。認知度向上、イメージアップ、集客などの効果があります。SEOを行い、上位表示を狙うことでより大きな効果を上げられる手法です。
SEO
SEO(Search Engine Optimization)とは、指定のキーワードで検索されたとき、自社のサイトが上位に表示されるようにサイトの最適化を図ることです。検索結果の上位に表示されることで、より多くの閲覧者を獲得し、サイトの効果を上げることができます。ただし、検索エンジンのアルゴリズムは頻繁に修正されるため継続した対応が必要な手法です。
MEO
MEO(Map Engine Optimization)はSEOの一種です。キーワードではなく、検索エンジンの地図、主にGoogle Mapで「地域名+業種」で検索されたときに自社サイトが上位表示されるように、サイトの最適化を行います。SEO同様に、アクセス解析を行いながら常に改善・更新しなければなりません。
また、SNSと紙の広告など、2種類以上の媒体を組み合わせたクロスメディアでの運用(クロスメディアマーケティング)も重要です。互いにリンクした内容をそれぞれの媒体に合わせて展開することで、各媒体のメリットが生かされ、相乗効果を得られます。
現在はスマートフォンの普及により、エリアマーケティングでもさまざまな媒体での露出が可能です。
商圏分析に基づいたエリアマーケティングを行う際のポイント
エリアマーケティングで重要なのは、地域の特徴や消費者の属性からニーズを把握し、適切なマーケティングを行うことです。そのためには、次のような点に注意が必要です。観光業で必要な視点もあわせて紹介します。
マクロ分析
マクロ環境の分析とも呼ばれます。エリアマーケティングでの「マクロ環境」とは、人口や政治、社会状勢を基にした、マクロな視点での経済環境のことです。例えば、人口、人口分布、昼夜間人口差、世代構成などの情報を取得・分析します。
マクロ分析は地域の全体像をつかむために重要で、中長期的な視点でのマーケティングを可能にします。
住民の生活様式の分析
年代、属性などにより生活様式は異なり、需要も変化します。例えば、学生、ファミリー、シニアの各世帯では家具や調度品、行動範囲などは異なるでしょう。その地域の住民にはどのような属性が多く、どのような生活様式(ライフスタイル)をとっているかを把握することが重要です。
地域特有の文化を理解
地域により、住民性、土地柄、慣習、特産物などは異なります。例えば、おでんやうどんは東西で味付けが異なるのは有名な話です。観光客向けのエリアマーケティングでは、住民にとってはあたりまえのことが地域の特性となり、観光地としてのアピールポイントとなるかもしれません。
競合相手を分析
商圏の重なる競合企業、店舗について分析を行います。規模、商品やサービス、営業時間、顧客の声などのさまざまな情報を収集し、自社と相手の強みを把握して比較することが、マーケティング戦略の策定に役立ちます。観光業であれば、旅行市場内の競合分析をしたうえで自地域のポジショニング戦略を決定すれば、独自の位置を獲得できるでしょう。
観光業で必要な商圏分析のポイント
観光地域に関するデータは、各企業や業界団体などに散在している傾向があります。自治体などの公的機関が持っているデータは都道府県単位のものも多く、より狭い地域のデータが必要な場合は新たに取得する必要があります。また、データを取得・分析するツールの選定も重要です。
なお、観光庁では、観光促進のための政策のひとつとして、観光地域づくり法人(DMO)の登録制度を設けています。飲食店、宿泊施設、地元商店街などがDMOに登録することによって、地方自治体などと連携したデータドリブン観光施策を策定できます。
効果的なエリアマーケティングには地域についての深い理解が必要
エリアマーケティングでは、地域についてさまざまな情報を収集して分析し、その特徴を正確に把握する必要があります。それによってより適切なマーケティング戦略を立てられるからです。
エリアマーケティングは通常、近隣住民を対象に展開しますが、地域についての情報収集や特性の把握により、観光客の集客へも応用できます。
また、人流データを組み合わせることで、人の流れを把握し、より精緻なエリアマーケティングや効果的なプロモーションを行うことができます。そのためには、エリアマーケティングに活用しやすいデータベースや広告配信システムがあると効果的です。
NTTタウンページの「人流DXソリューション」は、多彩な提携企業からもたらされる膨大な「人流データ」と、NTTタウンページが保有する企業情報データベースを融合させて、精密かつ正確に分析。さまざまなエリアマーケティングや地域政策に対応できます。
「いつ・どんな人が・どこからどこへ」移動したかを可視化して、エリア内における課題を把握。ターゲット層の行動を分析して、具体的な解決策を導き出します。
自社のエリアマーケティングに、競合他社の商圏の把握に、観光(DMO)に、自治体の市街地活性化計画や防災計画に。NTTタウンページの「人流DXソリューション」で、課題の解決をお手伝いいたします。ぜひご検討ください。
参考:
・観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック|観光庁(PDF)
・観光地域づくり法人(DMO)とは?|観光庁
2023年7月執筆
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