コロナ禍で着物離れが加速?
呉服店都道府県別登録件数ランキング
日本が世界に誇る文化のひとつ「着物」。海外では着物は「着るアート」とも言われていて、日本だけでなく様々な国の人からも高い評価を得ています。
しかし、コロナ禍の影響で展示会や成人式などのイベント自粛や外出機会が減るなどした影響もあり、近年〝着物離れ〟に拍車がかかっています。着用機会の減少、着付けの難しさ、価格の高さなど、特に若年層にとってハードルの高いイメージがあることも理由と思われますが、それでも「着物を着てみたい」という若年層のニーズ自体はあるようです。
新規の顧客になり得る世代に対するアプローチは市場復調のカギであり、昔ながらの販売方法から脱却して新たな層を取り込めるかが業界としての課題です。近年ではこれまで未開拓であった20~40代の層に向けたサブブランドを展開する企業もあるようです。
今回は、全国の呉服店の登録件数から業界の状況を考察し、どの地域に呉服店が多いのかを都道府県別に調査しました。
「呉服店」登録件数の推移
はじめに、2013年から2022年までの全国の呉服店の登録件数の推移データをご紹介します。
2013年から2019年のコロナ禍以前の状況としては、毎年約600件のペースで呉服店の登録数が減少していました。2020年のコロナウイルス感染拡大が発生後は、呉服店の登録件数は10,000件を割り、同じペースで現在も減少が続いています。
着物市場自体もピーク時に比べてすでに大きく縮小しており、価格競争で多くの呉服店が消耗し淘汰されてしまっています。
呉服店が減少し続けている理由としては、着物を購入するシニア層が高齢化して、購買力が落ちていることにあります。
また、結婚式の洋装化、簡素化や、これまで着物を購入する機会となっていた七五三や成人式等でも、フォトスタジオやレンタルショップを利用する人が増えていることも要因の一つであると考えられます。
国際社会においても、環境問題などが大きく取り上げられ、日常の中で「エコ」(自然環境保全)を意識する機会も多くなりました。
この「エコ」という概念に支えられて、「リサイクル」、「レンタル」は市民権を得るようになり、車や洋服に関しても「レンタル」、「リサイクル」、「シェア」という使い方に抵抗を持つ人は少なくなっています。近年ではSDGsという言葉も定着するようになりました。
昔は普段から浴衣を着る機会が多くありましたし、年齢が上がれば自然と着物を手にする機会も多いものでした。しかし、選択肢が増え多様化した現代において、ただ待っているだけでは着物を選んでくれない時代に突入しています。
また、冒頭でも述べたように、着用機会の減少、価格の高さなどから、若者の着物離れが業界の課題として浮き彫りになりました。着物は高級品にあたるため、普段の生活で馴染みのない若者にとって購入する機会にはなかなか巡り会いません。その上、着方や着用時のマナー、TPOに合わせた着物の選び方、適正な価格などの知識も不足しているため、購入からはますます遠ざかってしまいます。
ただし、着物の購入に対する不安があるからといって、着物に関心がないわけではありません。着物は日本の伝統文化を感じられるものですし、鮮やかな色彩やきらびやかな姿は多くの女性を魅了しています。冠婚葬祭や成人式などのイベントでは、積極的に着物を着用する若者が多くいます。それでもコロナウイルスの影響で、成人式などのイベントが中止となり、若者が着物に触れる機会は失われてしまいました。
コロナ禍の規制が緩和され、イベント等が再開され始めている今、若者に着物への興味を持ってもらえるよう、日常に着物を取り入れるための新たな企画などを打ち出す企業が徐々に増えてきています。
北陸地方が上位を占める「呉服店」登録件数
続いて、2020年から2022年にかけて都道府県別の呉服店の登録件数と10万人あたりの呉服店の登録件数の調査結果をご紹介します。
人口10万人あたりの呉服店の登録件数が多い地域は、1位が10万人あたり27.38件で福井県、2位が10万人あたり20.04件で石川県、3位が10万人あたり19.33件で富山県となり、TOP3はすべて北陸地方の県がランクインするという結果になりました。
北陸地方4県の一つである新潟県もランキングTOP10入りをしています。
1位の福井県は3年連続で10万人あたりの登録件数でトップを維持しており、いずれも10万人あたり30件近い数値を記録し、2位以下に大差をつけています。
2位の石川県は2020年は10万人あたり21.72件で3位にランキングされていましたが、2021年に10万人あたり21.19件で2位になり、2022年も順位を落とさず2位にランクインしました。
3位は富山県ですが、2020年は2位にランクインしており、石川県と熾烈な争いが続いています。
福井県・石川県・富山県と同じ北陸地方である新潟県を含め、4位から7位までは毎年同じ県が順位を変えずにランクインしています。
しかし、いずれの県でも呉服店の登録件数は減少しており、前年より増加もしくは同数であった県はTOP10の中にはありませんでした。
【1位】福井県
福井県はかつて羽二重王国と呼ばれた絹織物の産地で、その起源は西暦2世紀頃からとも言われています。第二次大戦後は世界最大の繊維産地として栄え、衣料分野以外へも繊細な技術が利用されています。
【2位】石川県
石川県は、伝統的な着物の染色技法である加賀友禅発祥の地です。加賀友禅は京都の絵師が確立した技法で、写実的で緻密な絵柄に加賀五彩と呼ばれる5つの色で染色し、色鮮やかな仕上がりが特徴的です。現在も金沢市を中心に生産・販売されています。
【3位】富山県
富山県も伝統的な絹織物の産地です。富山県で生産された絹織物は、石川県で染められ、加賀絹として江戸を中心に全国へ送られていました。特に生産が盛んだった城端の織物組合事務棟は国の文化財に指定されています。
外国人に人気の「KIMONO」
市場も縮小し呉服店の登録件数も減少している着物業界ですが、着物に対するニーズは多く、特に外国人からの人気が高まっています。
着物は羽織った際のシルエットや染められた図柄が特徴的で、日本の伝統文化を強く感じることができるため、多くの訪日観光客に着物の着付けが人気となっており、海外の辞書にもKIMONOと記載があるなど親しみが感じられます。
京都など日本古来の街並みを楽しめる場所では、多くの外国人観光客の着物姿が見られます。コロナ禍の影響で減少してしまった訪日観光客ですが、コロナ禍の規制が緩和され、外国人観光客が増加すれば、着物を目にする機会も増えていくことでしょう。
また、外国人が着物を着る姿がSNSで広がれば、SNSを通して海外からの情報を積極的に収集している国内の若者にも間接的にアピールとなるはずです。
まとめ
コロナウイルスの感染拡大が発生する前から登録件数が減少傾向にあった呉服店ですが、新たな顧客層へのアピールができれば復調の可能性も十分秘めています。若者へのアプローチや外国人観光客へのサービス拡大など、既存の顧客を大切にしながら新たな顧客への宣伝活動も必要になることでしょう。
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2022年10月執筆
【調査概要】
都道府県別 人口約10万人に対する「呉服店」の登録件数分布及び年別の推移を掲載しています。
■対象期間と抽出方法:2020年・2021年・2022年の各4月時点で、タウンページデータベースの業種分類「呉服店」に登録されている件数を集計し算出。
※1人当たりの登録件数は、小数点以下数桁になるため10万人換算をしています。
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